冬の表皮を鋭いナイフで裂いて、
その隙間から春へ身を滑り込ませる。
誰も知らない春を知らせて梅の花は開く。
咲くとはそういうことなのです、私たちにとって……
と梅が言う。
その隙間に気づいたほかの草木が
冬の眠りからやっと目覚め、ゆっくり春へ身を移すとき、
私たちはおそらく花を散らせているでしょう。
それで孤独ではないのか、と聞くと、梅は笑って言った。
先駆けるとはそういうことなのです。それに…、
誇りはそのまま香りとなり、記憶の中に生き続けることを、
私たちは知っています。
などという話を梅に聞いたとか聞かないとか、ここだけの話です、ええ。
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